幹細胞(かんさいぼう)とは何に効くか、幹細胞の種類や働きをわかりやすく解説!IPS細胞をはじめ、最新の幹細胞治療(再生医療)ついて紹介します。
また、幹細胞治療は美容や若返りに効果があるのか、クリニックで行う治療や幹細胞培養上清液(じょうせいえき)の効果やヒト幹細胞・植物幹細胞コスメについても調査しました。
プラセンタやエクソソームと幹細胞の違いなど、よくある質問についてもまとめたので参考にしてください。
目次
幹細胞とは?幹細胞の種類と働きについて簡単に解説!

幹細胞(かんさいぼう)という言葉を聞いたことがある方は多いと思われます。
人間の体は、もともとは1個の受精卵から細胞分裂を繰り返し、約60兆個の細胞で組織や臓器がつくられています。体は常に新しい細胞を作り続けているため、たとえばケガをしても修復する力をもっており、古い皮膚がはがれても新たな皮膚が生まれてきます。
この細胞の働きを担っているのが「幹細胞」です。
幹細胞は失われた細胞を新しく補う役割があり、傷ついた部位に集まった幹細胞がそれぞれ分裂し、血管を作ったり、血管や組織を作ったりしています。
1.異なる細胞を生み出す【分化能】
役割が決まっていない細胞から脳や心臓、骨などそれぞれの器官に特化した細胞になる
2.自分の細胞のコピーをつくる【自己複製能】
分裂・増殖過程を経ても同じ特性をもつ細胞を複製する

幹細胞は上記のように、分化や自己複製の役割を担い、細胞分裂や増殖を繰り返してヒトの体をつくっています。
幹細胞は体のどこにある?幹細胞が多い臓器と組織幹細胞の働きを図解
人間の体の中の臓器に存在し、働いている幹細胞を「組織幹細胞」(生体幹細胞・体性幹細胞)と言います。
組織幹細胞は、すべての細胞に分化できる能力はなく、下記のようにそれぞれの組織をつくる役割を担っています。
ここでは、体の中にある主な「組織幹細胞」を簡単に紹介します。

神経幹細胞 | ニューロンをつくる |
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上皮幹細胞 | 皮膚をつくる |
心筋細胞 | 心臓を形成する筋肉細胞をつくる |
肝幹細胞 | 肝細胞をつくる |
造血幹細胞 | 赤血球や血小板、白血球をつくる |
間葉系幹細胞(MSC) | 骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化する細胞をつくる |
生殖幹細胞 | 精子または卵子をつくる |
消化管上皮幹細胞 | 消化・吸収にかかわる細胞をつくる |
骨格筋幹細胞 | 骨格筋をつくる |
上記は組織に含まれる幹細胞ですが、なかでも現在は間葉系幹細胞(MSC)に注目が集まっています。
間葉系幹細胞は、骨髄・脂肪・歯髄・へその緒・胎盤などに存在し、比較的容易に採取でき、内臓組織や神経組織などへの細胞への分化能力が高いと言われています。
ES細胞のように受精卵を用いるなどの倫理的な問題がなく、安全面でのリスクが低いということで世界的に様々な研究が進められています。
ES細胞とIPS細胞などのあらゆる細胞に分化できる多能性幹細胞とは?
2012年に山中伸弥教授の研究がノーベル生理学・医学賞を受賞したことにより、iPS細胞は世界的に知られるようになりました。
ここでは、「多能性幹細胞」と呼ばれるES細胞やiPS細胞とは何か、簡単に説明します。
ES細胞(胚性幹細胞)は受精卵が着床する前の胚盤胞になった段階で単離された細胞で、様々な組織や細胞に分化する能力を持っています。ただし、ES細胞は生命の源である受精卵を用いるため、倫理的な問題があります。また、他人の幹細胞を移植するには免疫拒絶反応の問題もあります。
一方、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)は人工的につくることができ、人間の皮膚や血液の細胞に少数因子を導入・培養することで多能性幹細胞に変化し、ほとんどの細胞に分化することができます。失われた機能や臓器をつくりだして移植することが可能になるので多くの機関で研究が進められており、現在は治験が開始されています。
また、iPS細胞でつくった臓器に新薬を投与する研究も進められています。
下図のいちばん上にある「全能性幹細胞」とは受精直後から約2週間の「受精卵」で、生命の根源ともいえる細胞です。
その下の「多能性幹細胞」は、無限に増殖する能力とあらゆる細胞に分化する能力をもち、様々な臓器や組織に形を変えることができる幹細胞です。ES細胞やiPS細胞は多能性幹細胞で、受精卵に含まれる細胞を培養したものをES細胞、人工的に増殖させて作った細胞をiPS細胞と言い、組織性幹細胞に分化していきます。

幹細胞は何に効く?幹細胞治療の適応疾患とその効果について

幹細胞はキズついた組織を治療したり、免疫を調整したり、神経を再生したりと様々な機能をもっているため、あらゆる疾患の治療に効果があると言われています。
ただし、国が治療法として公的に認めているものは厳しい審査が必要で、保険適用の幹細胞治療は限定的で、現在行われている幹細胞治療のほとんどは自由診療で、治療の全額が自己負担になります。
ここでは幹細胞治療に期待される効果や近年、注目される間葉系幹細胞を使った「自己脂肪由来幹細胞治療」を紹介します。
幹細胞治療(再生治療)で治る病気は?主な適応疾患と期待される効果
現在、自由診療で行われる幹細胞治療適応疾患はどのようなものがあるのでしょうか。
下記に代表的な治療対象疾病と期待できる効果を簡単にまとめました。
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
身体の機能回復・リハビリ効果・再発予防 - 心筋梗塞・心不全
正常に働かなくなった心臓の細胞や心臓血管を正常に再生させる効果 - 認知症(アルツハイマー)
脳の炎症を軽減し、脳の新しい細胞の生成を助ける効果 - パーキンソン病
脳の炎症を軽減し、病気で変化した脳が健康な脳細胞置き換わる効果 - 変形性膝関節症
軟骨を再生し、膝関節の傷んだ軟骨を修復し、痛みを抑制する効果 - リウマチ
炎症や関節破壊を抑制し、関節を再生する効果 - 糖尿病
すい臓のインスリン再生細胞であるβ細胞の修復し、機能を改善する効果 - スポーツ外傷による運動器障害
軟骨・靭帯・筋肉・血管・神経組織の修復や再生を促す効果 - 動脈硬化症
血管を修復・再生して症状を改善する効果 - 慢性疼痛
痛みを軽減し、炎症を抑える効果 - 慢性肺疾患
免疫細胞の暴走を防ぎ、過度の炎症を防ぐ効果 - 慢性腎臓病
損傷した腎臓を修復し、腎臓の機能組織を再生する効果 - 肝硬変・肝繊維症など肝機能障害
過剰な免疫反応を抑え、傷ついた細胞を修復する効果 - 炎症性腸疾患
免疫抑制作用による炎症抑制や腸の細胞の再生促進効果 - 不妊症
卵巣機能不全による機能回復や子宮内膜の再生効果 - 脱毛症
自然な再生メカニズムにより本来の発毛メカニズムを取り戻す効果 - アトピー性皮膚炎
抗炎症作用や免疫抑制作用による皮膚の状態改善の効果
以上のように幹細胞治療は、幅広い疾患に効果があることが期待されています。
また、予防的な効果も期待されているため、さらに幹細胞治療への研究は進んでいくでしょう。
幹細胞治療「自己脂肪由来幹細胞治療」について解説
これまでは幹細胞治療と言うと、骨髄に含まれる「骨髄由来幹細胞」(造血幹細胞)が主流で、半世紀前から研究・応用されてきました。それはヒトの骨髄から採取された幹細胞で、神経再生能力が高く、脊髄損傷や変形性関節症に応用されるほか、白血病や貧血・リンパ腫などの重篤な疾患治療に使われてきました。
ただ、骨髄に含まれる幹細胞を使うにあたっては、骨髄穿刺による痛みを伴う採取、大量に培養するためのコスト、がん化のリスク、厳格な法規制などハードルが高いのが課題です。
そのような中、自分の体から採取した脂肪に含まれる間葉系幹細胞を培養し、点滴や注射で体に戻す「自己脂肪由来幹細胞治療」が世界中で注目され、研究されています。

採取が容易 | お腹やお尻などの脂肪組織から採取するため、患者の負担が少ない |
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分化能が高い | 骨髄由来と比べて骨髄由来幹細胞にはない筋分化能をもっている |
アレルギー反応や拒絶反応がほぼない | 自分の脂肪組織から培養される幹細胞のため、拒絶反応が極めて少ない |
治療のために入院の必要がない | 日常生活への支障が少ない |
「自己脂肪由来幹細胞治療」は、再生医療の可能性を広げるもっとも注目されている幹細胞治療と言えるでしょう。
幹細胞治療のデメリットは?効果なし・危険性はある?

一口に「幹細胞治療」と言っても、多発性骨髄腫のような重篤な疾病から、健康・美容目的で行われるものまで、現在は幅広い分野で幹細胞治療が行われています。
2010年にクリニックで幹細胞治療を行った後に肺動脈塞栓症により死亡した例や、複数の医療機関において無許可で再生医療が行われていた事例などをふまえ、2014年に日本では「再生医療等安全性確保法(再生医療法)」が制定されました。再生医療を行う医療機関に対する規制を目的に、再生治療を行う際に専門委員会による承認や厚生労働省への報告などの提出を義務づけており、治療を実施する前の届け出、定期報告が必要になっています。
また、再生医療は安全上のリスクに応じて第1種~第3種に分類されています。
第一種 | これまでヒトに実施されたことが極めて少ないため、既知・未知を含めてリスクが高く想定されるもの (ES細胞・iPS細胞や、他人の幹細胞を利用するもの) |
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第二種 | すでにヒトに実施されたことがあり、中程度のリスクを見込まれるもの (患者自身の体性幹細胞などを利用するもの) |
第三種 | もともと細胞が持っている機能を利用し、大きな操作を加えないため、大きなリスクは想定されないもの (加工を施した体性細胞を利用したものなど) |
現在、第二・第三種の治療は多くの医療機関で行われており、自己脂肪由来幹細胞治療は第二種に該当します。
このように幹細胞治療には規定があるため、厳しい審査が通った医療機関でしか受けられないこと、採取・培養に時間がかかること、費用が高いことがデメリットと言えるでしょう。

また、幹細胞治療はまだ研究段階の治療も多く、厚生労働省では承認されていない自費診療であることを認識しておきましょう。その上で治療を受ける際は下記を確認してください。
- 自分が受ける治療は届け出がされているものか
- 届け出通りの治療内容になっているか
- どういう効果が期待できるのか
- どんな危険性が予測されるのか
- 何か起こった場合、どんな対応をするのか
なお、「幹細胞治療は効果なし」と言われる理由としては、効果が出るまでに時間が数ヶ月ほどかかるためとも言われています。即効性を期待する治療ではなく、治療効果にも個人差があることも留意しておくべきでしょう。
幹細胞は美容や若返り・アンチエイジングの効果があるのか調査

人間は老化とともに視力・聴力・骨や関節をはじめ、様々な部位が衰えてきます。
幹細胞の数も老化とともに減り、生まれたときに60億個あると言われる幹細胞は、40歳では約3億個まで減ると言われています。
幹細胞の減少につれ、体の修復機能も衰え、病気やケガの修復能力も落ちることがわかっています。細胞の数については研究によって諸説ありますが、年齢とともに減少することは間違いありません。
現在、様々な研究機関で幹細胞の老化についての研究が行われており、老化を遅らせる意味でも幹細胞治療は注目されています。
- 慢性疼痛の改善
- 体重減少・筋力低下の改善
- エイジングケア(肌のしわ・しみ・ハリなどの改善)
- 免疫機能の向上
- 炎症性皮膚炎・アトピーなどの疾患の緩和
幹細胞治療は美容や若返り・アンチエイジングの究極の治療とも言えるでしょう。
美容クリニックで行う幹細胞治療や幹細胞培養上清液の効果
ここでは、美容や若返りを目的にクリニックで行う幹細胞治療について紹介します。主にクリニックで行われる「幹細胞」という名称を使った治療は以下の2つです。
患者自身の幹細胞を主にお腹などの脂肪から抽出・培養し、点滴や注射で投与する方法です。
たとえばシワやほうれい線、たるみが気になる部分に注入(移植)することにより、肌の再生促進や老化改善を期待できます。
また、若返りや健康を目的に点滴で全身に投与する治療などがあります。
幹細胞培養上清液は、幹細胞自体は含まれていません。患者自身の幹細胞は使用せず、ヒト由来の他家(本人以外)の幹細胞を培養した際の上清液を使用します。1.と同様に全身・局所投与で治療は行われます。幹細胞治療に比べるとかなり安価になりますが、幹細胞自体を使用するのではないため、効果については短期的になるでしょう。
幹細胞を培養した培養液から、幹細胞を除いた上澄み液が幹細胞上清液で、幹細胞自体は含まれていません。
この液体には、成長因子やタンパク質、サイトカイン、エクソソームなど細胞を活性化する成分が多く含まれているため、若返りや美容効果が期待されています。
なお、幹細胞培養上清液は、幹細胞に様々な種類があるように、体内のどこから採取された幹細胞の上清液なのかによって種類が異なり、効果も異なります。

幹細胞上清液は、多くの美容クリニックで提供されていますが、再生医療法の対象外できちんとした規制やルールがありません。
幹細胞上清液には多くの有効成分が含まれていますが、現段階では安全性や効果については懸念点があるため、厳重に管理された培養施設で製造されているかどうか確認し、信頼できるクリニックを選ぶことが重要になるでしょう。
幹細胞が増えるとどうなる?幹細胞治療の持続期間は?
幹細胞治療を行った場合、血液中の幹細胞は数ヶ月かけて血液やリンパ管を通って体内を循環し、損傷がある細胞を修復・再生します。これを幹細胞のホーミング効果と呼びます。
幹細胞培養上清液には幹細胞自体は含まれていませんが、上清液に含まれる成分によって肌が若返ったり、疲労が回復したり、発毛するなど新陳代謝が促進されます。
効果の持続期間については個人差がありますが、幹細胞治療では数年という長い期間持続すると言われています。
一方、幹細胞培養上清液の場合は、早い人では数週間で効果が出ますが、効果を持続するには、継続して治療を受ける必要があるでしょう。
美容で幹細胞治療を行う際の流れと幹細胞治療の費用相場を紹介!
記事で紹介しましたが、現在クリニックで行われている幹細胞治療の多くは、細胞採取が比較的容易な「自己脂肪由来幹細胞治療」になります。ここでは、美容クリニックで行う「自己脂肪由来幹細胞治療」の流れと費用相場について簡単に紹介します。
なお、自己脂肪由来幹細胞治療は保険適用外の自由診療になるため、全額自己負担になります。

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- STEP 1診察・カウンセリング・血液検査など
- 医師の診察と治療についての説明を受け、治療のスケジュールなどを立てます。
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- STEP 2脂肪細胞の採取・採血(30分程度)
- 多くは患者のお腹に局所麻酔をし、脂肪を採取します。
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- STEP 3採取した脂肪から幹細胞を採取・培養(3~6週間)
- 採取した細胞を細胞培養加工施設(CPC)で培養します。無菌状態で培養し、品質や安全性を確認します。クリニックによっては幹細胞を凍結保存する場合もあります。
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- STEP 4幹細胞の投与
- 関節や皮膚など患部が特定されている場合は局所注射を用い、全身への効果を期待する場合は点滴で投与します。数ヶ月ごとに数回行うのが一般的です。
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- STEP 5術後の診断
- 健康状態を診察し、効果や副作用についても確認を行います。
詳細は各医療機関で異なるので確認してください。
幹細胞の治療は脂肪採取から幹細胞を培養し、投与するまで多大な労力やコストがかかるため、治療費も高額になります。
幹細胞の数や投与の回数によっても費用は大きく異なるので、下記はあくまでも目安です。
1,320,000円~3,800,000円/回
なお、記事でも解説しましたが、「幹細胞培養上清液」を使用する治療も多くのクリニックで行われています。こちらの費用は幹細胞治療と比較すると1桁程度異なり、かなり安価になりますが、効果とリスクをふまえて検討してください。
治療の流れと費用相場を紹介しましたが、治療の効果を高めるためには細胞の質がとても大切です。
幹細胞の培養は、細胞培養加工施設(CPC)で行われていますが、保存状態や輸送、冷蔵や冷凍の過程で数が減少するため、適切な設備環境であるか、高い知識と技術をもった培養士が培養を行っているかをきちんと確認しましょう。
ヒト幹細胞・植物幹細胞とは何?コスメを選ぶ際の注意点
幹細胞は、ヒト(人間)だけでなく植物にも存在します。
最近、「ヒト幹細胞エキス」「植物性幹細胞ミスト」などの化粧品を見かけますが、これらのコスメには幹細胞自体は含まれていないので誤解しないようにしましょう。含まれているのは「幹細胞上清液」のことだと思われますが、成分が入っているか不明な製品も中にはあるので注意が必要です。

ヒトから採取した幹細胞の培養液を使用したコスメで、多いのはヒト脂肪細胞から採取された幹細胞上清液を含んだ製品です。その他、歯髄や胎盤由来の製品もあるでしょう。
ヒト由来のコスメは植物由来よりもアレルギーが起きにくく、安全性が高いと言われ、数万円以上する高価な製品もあります。
植物細胞を培養する際の幹細胞上清液を含んだ製品です。リンゴ幹細胞やアルガン幹細胞などが主で、ヒト由来の幹細胞コスメより安価で購入できるでしょう。抗酸化作用や保湿効果などが期待できると言われますが、アレルギーのある方は注意が必要です。
「幹細胞」という文字が入ったコスメを選ぶ際は、品質によって効果が大きく変わるので、何由来の幹細胞を培養した上清液なのかわかるものを選ぶようにしましょう。
幹細胞についてよくある質問Q&A

難治性の病気からアンチエイジングまで可能性を秘めた幹細胞治療は、世界中で大きな期待が寄せられています。
ここでは幹細胞治療についてよくある質問をまとめたので参考にしてください。
幹細胞治療は保険適用になる?
日本で健康保険が適用できる幹細胞の再生医療はまだ限定的で、一部の疾患にしか保険適用はされません。
- 血液疾患(白血病・再生不良性貧血)に対する造血幹細胞移植
- 脊髄損傷に対する自己骨髄由来間葉系幹細胞治療
以上の疾病が保険適用の対象です。
なお、変形性膝関節症は再生医療において複数の選択肢があります。患者の軟骨組織の一部を取り出して体外で培養し、移植する「自家軟骨培養移植」は保険適用になりましたが、幹細胞治療においては、自費診療になります。
現在、ヒト幹細胞を用いる臨床研究は多くの医療機関で行っており、薬では完治しない難病において有効な治療法となる可能性はありますが、まだ研究段階のものが多いのが実情です。
IPS細胞の実用化はいつ?治せる病気は?
IPS細胞を使った治療でもっとも実用化に近いと言われているのは「加齢黄斑変性」という眼の病気の治療で、2014年、世界で初めて加齢黄斑変性の患者に自身のiPS細胞由来網膜色素上皮細胞シート移植を行いました。その後の調査で7年以上経過後も患者は腫瘍化せずに視力維持していることを確認しています。
そのほか、「パーキンソン病」「脊髄損傷」も、iPS細胞を用いた治験が行われています。 心筋梗塞や拡張型心筋症が原因で起こる「心不全」においても、iPS細胞から心筋細胞のシートをつくり移植する治験が行われ、移植経過後も問題は起きていません。
最新ニュース(2025年4月14日発表)では、京都大病院で1型糖尿病の重症患者にiPS細胞からつくった膵島(すいとう)細胞を移植する臨床試験を2月に実施したところ、経過は良好で安全性に問題ないことが確認され、2030年の実用化を目指すと報道がありました。
また、iPS細胞の作製において従来は1人分の作製に時間やコストがかかることが課題でしたが、2024年に京都大iPS細胞研究財団とキヤノンが自動的に作製する装置を完成させたことにより、将来的に大幅な時間短縮とコストダウンが可能になるようです。

このようにiPS細胞を使った治験や装置など技術の進歩により、「いつ」とは言えませんが実用化できる日は近づいています。
幹細胞とプラセンタ・エクソソームの違いは何?
美容クリニックなどで「プラセンタ」や「エクソソーム」などの言葉を見聞きしたことがある方も多いと思います。
どちらも健康や美容目的に用いられますが、幹細胞とは成分が異なり、作用も異なるのでそれぞれ解説します。
プラセンタは「胎盤」から抽出されたエキスで、多くのアミノ酸やビタミン、ミネラル、酵素などの栄養成分や成長因子を含有しています。ヒト・牛や豚・馬などの胎盤から抽出されたプラセンタには肝臓機能の強化や疲労回復・自律神経を整える作用から美容効果まであり、アンチエイジング法として広く知られています。
現在は、厚生労働省より医薬品としても認可され、更年期障害や肝炎などの治療薬として保険適用されています。プラセンタは製造過程で加熱処理・高圧蒸気処理などが行われているため、重篤な副作用はなく、安全性も確認されています。
なお、プラセンタは皮下注射として腕やお尻に打つのが一般的です。
エクソソームは「幹細胞培養上清液(エクソソーム)」などと表記されている場合があり、幹細胞培養上清液と同じものと誤解する方もいます。しかし、結論から言えば、エクソソームは幹細胞培養上清液に含まれる一つの成分の名前です。
幹細胞培養上清液にはエクソソーム以外に成長因子やタンパク質、サイトカインなどの有効成分が含まれていますが、現時点で安全性や有効性も確認されていない点も多く、再生医療学会でも品質に関して危惧をしています。
アンチエイジングの効果が期待されていますが、きちんとしたメーカーで品質管理された製品かどうかを確認したほうがよいでしょう。
なお、エクソソームは顔や首など悩みのある局所に打つことが多いようです。
幹細胞治療、プラセンタについては医療として認可されているものですが、エクソソームについては幹細胞を培養した際の成分で未承認の薬ということを留意した上で、品質管理が厳密な培養施設で製造されているものかどうか確認しましょう。
幹細胞治療は何回くらい受けられる?
自己幹細胞治療を受ける場合、個人の健康状態や治療内容によって回数は異なりますが、複数回投与したほうが望ましいと言われます。1回で効果が出る場合もありますが、慢性的な疾患の場合は、継続的に複数回受けるとよいようです。
たとえば肝障害や慢性疼痛の場合は、1年間で2~3回治療を受けることで患部の炎症を鎮静化したり、組織の修復ができると言われます。
また、幹細胞治療は何回でも受けられますが、症状に合わせた適切な回数のエビデンスがないので、医師とよく相談した上で決めるとよいでしょう。
幹細胞治療は受けられない人はいる?
下記の項目に該当する方は、幹細胞治療が受けられません。
- 妊娠または可能性のある方
- 授乳中の方
- 未成年の方
- 高度な貧血の方
- 悪性腫瘍のある方
- 感染症検査が陽性の方
ほかにも医療機関によっては治療が受けるにあたって条件を設けている場合もあるので、確認してみてください。
なお、年齢による幹細胞には差がないということもわかっています。幹細胞の数は加齢によって減りますが、幹細胞自体の質は年齢差がないので、高齢でも治療を受けられます。
幹細胞はライフスタイルでも増やすことができる?
幹細胞は加齢とともに減少してしまいますが、ライフスタイルによっては幹細胞を現状より増やすことは可能です。
幹細胞治療は究極のアンチエイジング法ですが、高度な医療で誰もができる治療ではないので、ライフスタイルを見直し、老化防止や健康維持につなげていくことも重要でしょう。
- ウォーキングなどの中程度の運動
- ポジティブな感情
- 週に1回の断食
- 野菜や繊維質の豊富な食事
- 7時間程度の良質な睡眠

幹細胞を増やす栄養素として、ビタミンC・アルファリポ酸・ビタミンD・ブドウ種子エキス・マグネシウム・クエルセチン・セレン・ブルーベリー・ザクロエキス・緑茶エキス・クルクミンなどが効果があると言われているので、積極的に摂取する食生活を心がけましょう。
なお、喫煙は幹細胞を減少させるので、禁煙することをおすすめします。
再生医療のひとつである幹細胞治療はいつまでも健康で若くありたいと願う方にとって究極のアンチエイジング法といえるでしょう。
リスクの高い第1種再生医療のiPS細胞の実用化にはもう少し時間が必要ですが、大きなリスクは想定されない第2・3種の再生医療は、複数のクリニックで行われています。
自費診療にはなりますが、自己脂肪由来幹細胞治療は認知症、変形性膝関節症、アトピー性皮膚炎などをはじめ、神経系の疾患や慢性的な病気にも効果が期待されています。
自分の体の自然な修復システムを利用して健康維持できる幹細胞治療は、体内からの若返り・美容に大きな効果をもたらしてくれる治療法として注目されていると言えるしょう。